銀誓館学園生徒、羽崎セピア(b27555)の個人用メモ代わりのBlog。TW運営ゲーム「シルバーレイン」関係者以外は回れ右をお勧めします。題名はルーマニア語の『9』より。
category:短編小説(+セピア日記)
カリカリカリと、鉛筆を静かに走らせる音が、静かな空間に響く。
古びた紙をたくさん集めた独特の香りの漂う空間。
夏場であるのにほどよく涼しい環境。
夏休みの図書館はセピアが普段過ごす寮よりも快適な空間だった。
本を守るため一定に保たれた室温と湿度もそうであるし、静かな空間はそれだけで集中力が増す。
もっとも、同伴の寮仲間は静かすぎる空間が苦手らしく、あまり落ち着いた感じはしない。
「なぁ、まだやんのか?」
「もう飽きてしまったのかい? 夏休みの課題を終わらせるために来たのに」
向かい合って図書館の机を占領し、数学や英語、理科と、様々なプリント類を積んだ「まだできていない宿題の束」を徐々に減らすことが今日の『仕事』だ。
セピアの束は最初の1/5ほど。
寮仲間の少年の束は、まだ半分よりも高い。
頭の良さは両者ともそう変わらないため、集中力と要領の違いだろう。
「だって面倒じゃんか……おまえ、よく終わるよな」
「こういうものは早めにやる方が気が楽だからね。それに、ここじゃないと私は解くのが大変だからね」
「図書館限定って、暑がりか?」
「違うよ」
むしろ自分が暑いと言わんばかりに彼は下敷きでバタバタと扇ぎつつ、宿題をよそに話しかけてくる。
だから進まないんだよ?
「ここなら大きな辞書があるから、日本語を調べるのが楽なんだ」
「ああ、そういや外人だっけ?」
「うーん……正確に言うならハーフなんだけど、育ちはあちらだから。話すのはそこそこできるんだけど、書くのはやっぱり難しいし、漢字が出てこないこともある。平仮名ばかりのプリントとか、読めないしね」
「その割に現地語しゃべらないよな」
「これも練習だからね。それより、キミは早く仕上げなくていいのかな? もう夏休みは少ないよ?」
「……ヤバイ実感だけはあるんだよな~」
なかなか進まない宿題に戻る寮仲間。
くすくすと笑いながら見守るセピア。
机の脇には厚めの辞書が二三冊。
古びた紙をたくさん集めた独特の香りの漂う空間。
夏場であるのにほどよく涼しい環境。
夏休みの図書館はセピアが普段過ごす寮よりも快適な空間だった。
本を守るため一定に保たれた室温と湿度もそうであるし、静かな空間はそれだけで集中力が増す。
もっとも、同伴の寮仲間は静かすぎる空間が苦手らしく、あまり落ち着いた感じはしない。
「なぁ、まだやんのか?」
「もう飽きてしまったのかい? 夏休みの課題を終わらせるために来たのに」
向かい合って図書館の机を占領し、数学や英語、理科と、様々なプリント類を積んだ「まだできていない宿題の束」を徐々に減らすことが今日の『仕事』だ。
セピアの束は最初の1/5ほど。
寮仲間の少年の束は、まだ半分よりも高い。
頭の良さは両者ともそう変わらないため、集中力と要領の違いだろう。
「だって面倒じゃんか……おまえ、よく終わるよな」
「こういうものは早めにやる方が気が楽だからね。それに、ここじゃないと私は解くのが大変だからね」
「図書館限定って、暑がりか?」
「違うよ」
むしろ自分が暑いと言わんばかりに彼は下敷きでバタバタと扇ぎつつ、宿題をよそに話しかけてくる。
だから進まないんだよ?
「ここなら大きな辞書があるから、日本語を調べるのが楽なんだ」
「ああ、そういや外人だっけ?」
「うーん……正確に言うならハーフなんだけど、育ちはあちらだから。話すのはそこそこできるんだけど、書くのはやっぱり難しいし、漢字が出てこないこともある。平仮名ばかりのプリントとか、読めないしね」
「その割に現地語しゃべらないよな」
「これも練習だからね。それより、キミは早く仕上げなくていいのかな? もう夏休みは少ないよ?」
「……ヤバイ実感だけはあるんだよな~」
なかなか進まない宿題に戻る寮仲間。
くすくすと笑いながら見守るセピア。
机の脇には厚めの辞書が二三冊。
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category:短編小説(+セピア日記)
――背、伸びたんじゃない?
同じ寮に住む寮生の一人に、そんなことを言われた。
『伸びた』と言われても実感はなかった。
背を測る、という行為をやった記憶がないのもあるし、昔住んでいた場所では、自分はいつでも「小柄な子供」で、まわりは背の高い大人か、痩せた子供達しかいなかった。
それに、服のサイズなどもあまり変わった記憶はない。
「測ったことがあまりないから、分からないや」
そう返すと、その寮生は一旦どこかに姿を消し、すぐに巻き尺と厚めの本を片手に戻ってきた。
――じゃあ、測ってやるから、そこの柱んとこで背筋伸ばして立ってな。
なんでも日本では『柱のところで背を測り、その場所に横線で傷を付けてどれだけ伸びたか確かめる』という、伝統だか風習だか……そう言うものがあるんだそうだ。
小さい子供達に、両親や祖父母に当たる人達がやるらしい。
寮生は、この場にいない『親』の代わりに、テキパキと作業を進める。
背筋を伸ばして立っている頭の上に、壁に沿わせて本を置いて、本の下の部分を定規に線を引く。
その後は、その線から床までの長さを巻き尺で測る。
7月の頭に、学園で測らされた時の身長は155.2cm。
8月の頭に、寮生の手によって測った身長は……
――156……には一歩足りてないな。155.9cmか。
思いの外、伸びていたことに驚いた。
これが普通なのかと思って聞けば、普通よりは伸びている方らしい。
――成長期なんだな……このまま伸びたらすぐに服とか合わなくなるぞ?
それはちょっと困るなぁと思いつつ、急に伸び始めた背の原因を考える。
……意外と簡単に答えは出た。
「やっぱり、栄養をとるって大事なんだね」
――は?
「いや、なんでもないよ。また測ってね」
――おう、構わないぜ。また2、3ヶ月くらいしたらいいな。
測ってくれた寮生と別れ、セピアはさっきまで本の乗っていた自分の頭に手を当てる。
貧しかった祖国での生活が思い出される。
貧しいと言えば、今でも貧しい。けれども、貧しさの基準が違う。
食い繋ぐために死線を綱渡りしなければならなかった国。
貧しくとも、最低限の生活は保障される国。
その差は大きいのだろう。
「けど、困ったな。 せっかく、母さんに似てきたのに」
背が伸びれば顔立ちも変わる。
尾のように伸びた髪の先を弄りながら、セピアは一人呟いた。
柱には、少し高い位置に引かれた真新しいラインが一つ。
同じ寮に住む寮生の一人に、そんなことを言われた。
『伸びた』と言われても実感はなかった。
背を測る、という行為をやった記憶がないのもあるし、昔住んでいた場所では、自分はいつでも「小柄な子供」で、まわりは背の高い大人か、痩せた子供達しかいなかった。
それに、服のサイズなどもあまり変わった記憶はない。
「測ったことがあまりないから、分からないや」
そう返すと、その寮生は一旦どこかに姿を消し、すぐに巻き尺と厚めの本を片手に戻ってきた。
――じゃあ、測ってやるから、そこの柱んとこで背筋伸ばして立ってな。
なんでも日本では『柱のところで背を測り、その場所に横線で傷を付けてどれだけ伸びたか確かめる』という、伝統だか風習だか……そう言うものがあるんだそうだ。
小さい子供達に、両親や祖父母に当たる人達がやるらしい。
寮生は、この場にいない『親』の代わりに、テキパキと作業を進める。
背筋を伸ばして立っている頭の上に、壁に沿わせて本を置いて、本の下の部分を定規に線を引く。
その後は、その線から床までの長さを巻き尺で測る。
7月の頭に、学園で測らされた時の身長は155.2cm。
8月の頭に、寮生の手によって測った身長は……
――156……には一歩足りてないな。155.9cmか。
思いの外、伸びていたことに驚いた。
これが普通なのかと思って聞けば、普通よりは伸びている方らしい。
――成長期なんだな……このまま伸びたらすぐに服とか合わなくなるぞ?
それはちょっと困るなぁと思いつつ、急に伸び始めた背の原因を考える。
……意外と簡単に答えは出た。
「やっぱり、栄養をとるって大事なんだね」
――は?
「いや、なんでもないよ。また測ってね」
――おう、構わないぜ。また2、3ヶ月くらいしたらいいな。
測ってくれた寮生と別れ、セピアはさっきまで本の乗っていた自分の頭に手を当てる。
貧しかった祖国での生活が思い出される。
貧しいと言えば、今でも貧しい。けれども、貧しさの基準が違う。
食い繋ぐために死線を綱渡りしなければならなかった国。
貧しくとも、最低限の生活は保障される国。
その差は大きいのだろう。
「けど、困ったな。 せっかく、母さんに似てきたのに」
背が伸びれば顔立ちも変わる。
尾のように伸びた髪の先を弄りながら、セピアは一人呟いた。
柱には、少し高い位置に引かれた真新しいラインが一つ。
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プロフィール
HN:
羽崎セピア
年齢:
29
性別:
非公開
誕生日:
1995/04/01
趣味:
ヘッドフォンで音楽を聴く
自己紹介:
不定期に更新されます。
MSNは他キャラ同居で一応。
必要な場合はお手紙でご一報を……知り合いなら多分渡すと思います。
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